令和7年11月

 君たち世田谷学園の生徒には、誇るべき呼称(呼び名)が2つあります。その一つは、学園の前身の名称に因んだ「旃檀林(せんだんりん)の獅子児(ししじ)」です。
 本学園は、明治35年、1902年に、駒込の吉祥寺にて「曹洞宗第一中学林」として開林したことをもって創立としています。しかし、その前身の誕生はさらに310年、豊臣秀吉の時代までさかのぼります。文禄元年、1592年、当時は江戸神田台にあった吉祥寺の山内に、若い僧侶が学ぶ「吉祥寺会下学寮(きちじょうじえかがくりょう)」が誕生しました。それが本学園の前身であり、いつしか「旃檀林」と言うようになりました。その由来は、江戸時代前期にこの学寮を訪れた陳道栄という中国の僧が、ここに学ぶ僧侶たちの道を求める真剣な姿に感歎して、「旃檀林」と大書したものを扁額として山門に掲げたことにあると伝えられています。中国・唐の時代に永嘉玄覚(ようかげんかく)大師という方の書かれた、「証道歌」という悟りの境地を表した書物があります。「旃檀林」とは、その中にある「旃檀林に雑樹(ざつじゅ)なし、鬱密深沈(うつみつしんちん)として獅子のみ住(じゅう)す」という一節からとったものです。「旃檀」とはインド原産の香木のことで、「旃檀林」という学寮の名称には、「この学舎は純粋で清潔な香り高い学舎であり、ここに学ぶ者は、獅子の如く第一級の優れた人物ばかりである」という誇りと気概とが込められています。
 主に16~23歳の若い僧侶が学んだ旃檀林は、明治に入ると、年長者が学ぶ曹洞宗専門学本校と年少者が学ぶ曹洞宗専門学支校とに分かれることになります。前者は現在の駒澤大学、そして後者が、曹洞宗第一中学林、駒込からこの三宿への移転や校名変更等を経て、この「世田谷学園中学校・世田谷学園高等学校」へとつながっています。

 君たちは、この「旃檀林」の流れを汲む「獅子児」です。ならば、その誇りと気概とを我が心としなくてはなりません。獅子児は獅子児にふさわしく、頭を上げ、胸を張り、大地を踏みしめて堂々と闊歩するのです。

 もう一つの誇るべき呼称は、「世田谷健児(せたがやけんじ)」です。「世田谷健児」の何たるかは、この後歌う校歌に明らかにされています。
 発心館1階の「獅子児の栄光」に写真が展示されていますが、昭和10年、1935年の11月、今の禅堂のあたりから校庭にかけて当時としてはモダンな2階建ての新校舎が完成しました。校歌は、これを記念して制定されました。作詞は当時学監であった中島栄松先生、作曲は音楽の岡田志津麿先生です。作詞に当たって、中島先生は北原白秋の校閲を受けたといいます。12月に発表となった校歌は、翌年の1月から、朝礼の際に歌われるようになり、それが現在まで続いています。

 その校歌の一番に、「修めよ学べ、我等が智と徳」という歌詞があります。これは4月の朝礼で話した「行学一如(ぎょうがくいちにょ)」を表しています。人間として自覚を求める生活、すなわち「行」によってこそ、学業が正しく習得(学)されるのであり、学業に専念(学)することが、そのまま人間としての理想の生活(行)につながります。そうすることで、「智」と「徳」を修め学ぶことができるのです。
 仏教・禅の「人は一人一人がかけがえのない尊い存在であり、誰もがりっぱな人間になることのできる力をもっている」という人間観は、人間のもつ尊厳性と可能性を表しています。
 「行学一如」を実践して「智」と「徳」を修め学ぶということは、君たち一人一人が、その尊厳性を明らかにしていくということです。そのためにも、自分という人間のあるべき形を調えていく。「挨拶の励行」、「正しい服装」、「10分前登校」、「清掃整頓」という学園が君たちに求める4つの実践目標は、その基本となるものです。どれも当たり前のことです。平常心のレベルを高くして、当たり前のことは当たり前に実践してください。

 一方、二番にある「鍛へよ磨け、我等が身(み)と魂(たま)」とは、禅堂に掲げてある「身心学道(しんじんがくどう)」を表しています。単に頭だけをつかって観念的に学ぶのではなく、身と魂、つまりからだと心、身心をあげて生き生きと学ぶ。そうすることで、君たち一人一人の可能性が最大限に引き出されていきます。9月の獅子児祭には、多くの生徒諸君が身心をあげて生き生きと臨みました。だからこそ、ご来場いただいた方々に、喜んでいただける、そして君たちの可能性を感じていただける、そんな企画がいくつもある、素晴らしい獅子児祭になったのだと思います。

 「旃檀林の獅子児」としての誇りと気概とをわが心とし、「世田谷健児」として智と徳を修め学び、身と魂を鍛え磨いて、君たち一人一人がそれぞれにもつ尊厳性と可能性を明らかにしていく。そして、これからの時代の地球社会に貢献する人となる。それが、世田谷学園に学ぶ生徒のあるべき姿です。
 この後の校歌を、頭を上げ、胸を張り、声高らかに歌ってください。

(「創立記念式典」式辞より)