令和4年11月
ただ今、創立121周年を記念する法要を、君たちには教室からお勤めしてもらいました。
文禄元年(1592年)、豊臣秀吉の時代に、当時は江戸神田台にあった曹洞宗吉祥寺の山内に、後に「旃檀林」と呼ばれるようになった学寮が誕生しました。それが、世田谷学園の前身です。吉祥寺は、明暦3年(1657年)、いわゆる明暦の大火で焼失し、その後、幕府の江戸再開発によって本郷駒込に移転していますが、山門には現在も「旃檀林」と書かれた額が掲げられています。ちなみに神田台当時、吉祥寺の門前町に住んでいた人々は、大火のあと武蔵野に移り住むようになりました。これが現在、武蔵野市にある吉祥寺という街のおこりだということです。
旃檀林は、明治に入るといくつかの変遷を経たのち、明治35年(1902年)に私立学校令に準拠した「曹洞宗第一中学林」として、あらたなスタートを切ることになりました。学園ではこの年を創立の年としています。大正2年(1913年)には駒込の吉祥寺山内からこの三宿の地に移転をし、11月12日に移転開校式が行われましたが、大正13年(1924年)に校名を「世田谷中学」と改称したときに、この11月12日が創立記念日と定められました。
そして、昭和に入ると戦後の学制改革にともない、新制の「世田谷中学校高等学校」となり、さらに昭和58年(1983年)、私学であることをより明確にするために、校名を「世田谷学園中学校高等学校」と変更して現在に至っています。
さて、君たちが学ぶ今の学園には、修道館、放光館、発心館、観性館という建物があります。その中で最も早く建てられたのは修道館、次が放光館ですが、この2つの建物は、現在の耐震基準も十分に満たしており、2014年にはリニューアル工事を経て生まれ変わっています。
このリニューアル工事によって、修道館のアリーナや武道場にエアコンが設置されたのですが、このとき、同窓会のご寄贈によりステージの緞帳も一新されています。今日は、この緞帳のデザインの意味について話をしておきたいと思います。
このデザインには、宇宙の宙という字を書いて「宙(おおぞら)」というタイトルがつけられていて、学園の目指す姿が、文字通り、宇宙から臨むかのような壮大なイメージで描かれています。
中央には、教育理念である“Think&Share”の文字があります。言うまでもなく、“Think”は「人は一人一人がかけがえのない尊い存在であり、誰もがりっぱな人間になることのできる力を持っている」という仏教・禅の人間観を表しています。教室に掲げられている「明日をみつめて、今をひたすらに」はそのためのモットーです。一方、“Share”は「人は固有の価値観や文化を持っており、それをお互いが理解し認め合うことで平和な地球社会の創造が可能となる」という仏教・禅の社会観・世界観を表していて、「違いを認め合って、思いやりの心を」とはそのためのモットーです。
“Think&Share”の後ろには坐禅の姿を象徴する三角形、その下には地球のシルエットを表す悠々とした円弧が描かれています。校章の中にもある、コミュニケーション・シンボルと呼ばれるデザインを、より大きくダイナミックに構成したものですが、三角形と円弧の境目あたりから光が発せられて、それが左右に広がっています。これは、君たち一人ひとりの夢の広がり、あきらめない強い思いを象徴しています。
最後に、大きく弧を描くグラデーションのついた3本の光る白いラインです。ひときわ目を引くこれらのラインは、学園が君たちの未来に描く人間像、すなわち、「自立心にあふれ、知性をたかめていく人」、「喜びを、多くの人とわかちあえる人」、「地球的視野に立って、積極的に行動する人」、簡潔に言えば、「賢く、豊かで、たくましい人」へと、君たちが自信と誇りと気概とをもって、日々学び、成長していく姿を表しています。すなわち、世田谷健児の姿、旃檀林の獅子児の姿を象徴しています。
君たちがアリーナでいつも目にしている緞帳にはそういう願いが込められています。そのことを理解して、“Think&Share”の理念のもと、世田谷健児として、旃檀林の獅子児として、明日に向かって自らをたくましく成長させていく、その思いを強くしてほしいと願っています。
(「創立記念式典」式辞より)