令和3年9月

 今日から2学期が始まりますが、新型コロナウイルスの感染状況に鑑み、明日からの授業はオンライン、今月に予定されていた獅子児祭も延期ということになります。イレギュラーな2学期のスタートとなりますが、自分が感染しないために、人に感染させないために、一人ひとりがあらためて予防対策を徹底するとともに、旃檀林の獅子児としての誇りを持って、日々を過ごしてほしいと思っています。

 さて、この夏、空手道部の中学生が全国中学生空手道選手権大会、高校生が全国高等学校総合体育大会と、中高揃って全国大会に出場し、高校生は男子団体の部で3位に入賞しました。また、硬式野球部は西東京大会でベスト4まで勝ち進み、準決勝を甲子園春夏連続出場の東海大菅生高校と東京ドームで戦いました。生物部も6年の宇田津君が高校生バイオサミットで農林水産大臣賞を受賞しています。それぞれの努力の過程に敬意を表するとともに、多くの部活が、コロナ禍の中で感染予防対策をしっかりと講じながら活動してくれたことに感謝をしています。

 また現在、東京パラリンピックが開催されていますが、約1ヶ月前には東京オリンピックが開催されていました。開催について賛否両論があったのは事実ですが、柔道73kg級で、君たちの先輩である平成22年卒業の大野将平選手が、2大会連続の金メダルに輝いたことは、素直に喜びたいと思います。  私もTVの前で応援させてもらいましたが、2年前には、日本武道館で開催された世界選手権を観戦したことがあります。そのときも大野選手は優勝しましたが、観客席から大野選手へ送られた声援や拍手の大きさは別格で、人気と期待の高さを肌で感じることができました。その要因が、彼の圧倒的な強さにあることは確かです。しかし、それだけではありません。その人間性に魅かれるものがあるから、人々は大野選手を応援するのだと思います。  彼の言動には、「明日をみつめて、今をひたすらに」、「違いを認め合って、思いやりの心を」という学園の2つのモットーを見る思いがします。  今回の決勝戦直後のインタビューで、大野選手が語った言葉も印象的なものでした。それは「私の柔道人生はこれからも続く。自分を倒す稽古を継続したい」という言葉です。ここには、今をひたすらに生きる者の厳しさと強さが込められているように思います。  また、中学校の道徳の教科書にも掲載されるほど、畳の上で丁寧に礼をする姿には美しいものがあります。その根底にあるのは、学園の持田先生の教えであり、相手を敬う気持ちです。試合に勝って、ガッツポーズや笑顔を見せないのも、精いっぱい戦った相手への敬意からであり、それが大野将平選手の流儀です。

 オリンピック連覇への道は平坦ではなかったはずです。「正しく組んで、正しく投げる」というのが大野選手の信条ですが、弱点を研究され、自分の柔道を貫けない、つらい日々もありました。また今年5月には、海外選手との実戦感覚を取り戻すために行ったロシアからの帰り、アクシデントがあって帰国の飛行機に乗れず、現地に5日間も足止めされてしまいました。その上、帰国後には隔離期間もあります。オリンピックまで2ヶ月を切った大切な時期に稽古ができない、無駄な時間を過ごすことになると、さすがの大野選手もいらだちを覚えたそうです。しかし、彼はその状況を受け入れました。「どうしようもないことって人生には起きる。理不尽なこともたくさん経験してきた。過酷な中でも、毎日を必死に進んでいくしかない。みんなそうなんだ」と、思い直したのです。

 人は、過去の失敗や不確かな未来のことで不安にさいなまれることがあります。しかし、私たちは過去や未来ではなく、「今」を生きています。大切なのは、その「今」をどのように過ごすのかということです。不安にとらわれて悶々とするばかりでいるのか、不安を覚えつつも、今できることに目を向けて前進していくのか。

 「今」という一瞬一瞬に、選択肢と可能性が宿っています。たとえコロナ禍にあっても、一人ひとりが二度とはない「今、ここ」に意識を集中する。君たちが、旃檀林の獅子児としての気概を持って、今できる精進を一つひとつ重ねてくれることを願っています。

(「2学期始業式」式辞より)