平成29年2月

ただ今、涅槃会(ねはんえ)の法要を執り行いました。

 「涅槃会」は、古来2月15日とされているお釈迦様のご命日の法要です。したがって、「涅槃」という言葉は、お釈迦様のご臨終という意味で一般には理解されています。しかし、その語源は古代インドの“nirvana(ニルヴァーナ)”という言葉であり、そこには「火を吹き消す」という意味があります。
 人間の生活には、思い通りにならないことがたくさんあります。それが「苦しみ」です。お釈迦様は、その原因は人間がもつ様々な「煩悩」にあるとし、これを「貪(とん)・瞋(じん)・癡(ち)」という3つの根本煩悩に整理されています。「貪」は貪りの心、「瞋」は怒りの心、「癡」はおろかさのことで、この3つの根本煩悩を「三毒」とも言います。お釈迦様は、人間の心が煩悩に支配されている状態を「すべては燃えている」と表現されていますが、この煩悩の炎を消し去ってしまえば、苦しみはなくなり、心は平安を得られます。その状態が「涅槃」です。
 人は誰でも、人生を幸せに生きていくために生まれてきています。だから、昨年来校されたダライ・ラマ法王も、怒りや憎しみの心を鎮め、かわりに愛と慈悲の心を高めなさい、そして心の平和を築きなさいと仰っています。それが世界平和を達成するためにも私たちがまずなさなければならないことだと説かれています。
 ところが、貪り、怒り、憎しみ、妬み、不平不満……、そうした貪・瞋・癡の三毒に私たちは簡単にとらわれてしまいます。すると、それらを燃料に煩悩の炎はますます勢いを増していきます。たった一つの角度からしか物事を見ることができなくなって、全体的な、ホリスティックな考え方もできなくなってしまいます。そのために、この地球に生きる70億人のすべてが同じ人間社会に属しているのに、争いばかりが起きることになってしまいます。
 しかしながら、私たちには、誰にでもできる煩悩の炎を鎮める術があります。それは何かというと、一人ひとりがつとめて感謝の心をもつということです。それが、愛と慈悲の心を高め、心の平和を築く礎となります。しかも、その恩恵は自分一人にとどまるものではありません。
 今月のはじめ、中学入試を行いました。受験生の皆さんが帰るとき、私は事務所の横で「さようなら」とか「お疲れ様」と声をかけていました。受験生の皆さんも「さようなら」と返してくれるわけですが、その中に「ありがとうございました」と言ってくれる人たちがいました。入試の手伝いをしてくれた学園の中学3年生の中にも、「ご苦労様」と声をかけると、「ありがとうございます」と返してくれる人たちがいました。即座に感謝の言葉を口にできるということは、素晴らしいことだと思います。お互いを清々しい気分にさせてくれる、「ありがとう」という言葉の力を再認識させてもらいました。
 私たちのまわりには、感謝できることがたくさんあります。プラスの出来事が続いて順調なときには、そこには必ずお陰様のご縁があるし、逆境にあるときも、そのお陰で成長することができると思えばありがたいことです。家族がいる、仲間がいる、学校に通える、仕事がある、当たり前に思えることも、実はそれだけでありがたいことです。
 だから、つとめて感謝の心をもつこと、そして、できる限り笑顔で「ありがとう」と口に出して言うことが大切です。私たちはしばしば「ありがとう」と言うべき場面で、「どうも」とか「すみません」という言葉を使ってしまうことがありますが、「どうも」はそれだけでは意味をもちません。「すみません」は謝罪の言葉です。謝る場面で素直に謝ることは大切なことです。しかし、感謝を表すときにはやはり「ありがとう」です。
 言葉には言霊があると言います。自分の発する言葉は必ず自分の耳に入ってきます。普段何気なく使っている言葉というのは、それを発し、それを聞くことで自然と心にため込まれていくものです。だから、煩悩にとらわれて、不平不満のようなマイナスの言葉ばかりを発していると、マイナスのイメージが心にたまっていきます。しかし、意識してプラスの言葉を発していけば、それまでマイナスのイメージがたまっていても、それを打ち消し、それだけでなくプラスのイメージが心にたまっていきます。「ありがとう」は、プラスの言葉の中でも最も心にエネルギーをためてくれる言葉です。それが、煩悩の炎を鎮め、心の平和を築くための一つの術となります。
 プラスのイメージを心にためていけば、「明日をみつめて、今をひたすらに」生きる勇気が湧いきます。心が温かくなって、「違いを認め合って、思いやりの心を」めぐらせられるようになっていきます。そして、自他の人生が豊かになっていきます。
 身のまわりにたくさんある感謝すべきことに気づき、積極的に「ありがとう」と口に出す。そこから心の平和は築かれます。涅槃会の因みに、ぜひ自他ともに、豊かに幸せに、人生を歩んでいってほしいと思います。(涅槃会でのお話から)